絶縁双方向電力変換技術

Innovation 02
絶縁双方向電力変換技術
※所属・役職は公開当時のものです

“世界一小さい電源をつくる”。
4人のチームが社内のノウハウを結集して開発した
「絶縁双方向電力変換器」

  • ダイヤゼブラ電機株式会社
    CTO室 フェロー
    権瓶 和彦さん
  • ダイヤモンドエレクトリックホールディングス株式会社
    常務執行役員 CTO
    森 信太郎さん
  • ダイヤゼブラ電機株式会社
    CTO室 アソシエイトフェロー
    中原 将吾さん

V2Gでの展開を視野に入れた新たな技術開発。
サプライヤーとしての差別化を図る意図も

「絶縁双方向電力変換器(DAB)」とはどういった技術ですか。

中原

DC-DCコンバータと呼ばれる電源の一種で、所定の電圧から別の電圧へ、例えば200Vから100Vへと直流同士で電力変換を行うものです。ご家庭の電子機器などでも使われているDC-DCコンバータは、例えばコンセントからパソコンへというように、一方向の電力変換しかできませんでした。今回私たちが開発したDABは、双方向で電力変換ができる点が大きな特徴となっています。

権瓶

この技術開発を実現することにより、車載充電器への“充電”と、その車載充電器から逆に電力系統への“放電”の両方が可能となります。弊社ではV2G(Vehicle to Grid)への取組み強化を図っており、「車と家をものづくりでつなぐ」というビジョンのもと、必要な技術開発を進めています。今回のDAB開発も、その一環として進められました。

中原

これまで弊社は自動車メーカー様に対するサプライヤーとして、メーカー様から頂く仕様書を基に各種部品を製造、供給してきました。しかし、そうした関係の中では他社サプライヤーとの差別化が難しく、今後の厳しい競争の中で打ち勝っていけるかという課題が常にありました。メーカー様の指示どおりに作るだけではなく、弊社の方から新しい技術や、従来にないハイレベルな技術を提案していくことで、サプライヤーとしての価値を高めていきたい。そんな思いも、今回のDAB開発には込められていました。

“小型化”を目指して試行錯誤。
アイデアの種を拾い集めて形にする

開発は、どのように進められたのですか。

権瓶

チームリーダーである中原を中心とした4人の専任メンバーでチームを組んで、2017年に開発をスタートさせました。私は、他のプロジェクトと併せて全体を統括する立場でした。チームメンバーは本社のある大阪と東京に分かれており、20~30代の若手が中心。中原はハードウエアが専門で、ほかにソフトウエアの専門家がチームにいるのですが、その人間は私が新潟の拠点にいた時の同僚だったので、頻繁に情報交換をしながら進捗を見守っていました。

中原

私は25歳で入社し、5年ほど量産設計の部署にいたのですが、30歳になったあたりで開発系の部署に移動し、そこで初めて任されたのがこのDAB開発プロジェクトでした。チームリーダーという立場でしたが、実際にはまだ右も左も分からない手探りの状態で、開発に取り組むことになりました。

開発における技術的なポイントは。

権瓶

車載を想定しているので “小型化”が大前提としてありました。そこで市場調査を行い、一方向タイプのDC-DCコンバータも含めたどの従来製品よりも小さいサイズにしようという目標を立てました。「世界一小さいものを」と、大変高い目標をチームに与えたのです。

中原

サイズを小さくするためには、DABを駆動する周波数を大きくしなければいけません。従来のDC-DCコンバータで車載タイプのものは概ね100kHz程度の周波数でしたが、目標のサイズを達成するためには、これを20倍の2MHzに引き上げる必要があることが分かり、それを技術的にどう実現するかが最初の大きな難関でした。弊社がこれまで蓄積してきた従来のDC-DCコンバータ製造技術を改めて掘り起こし、そこからアイデアの種を拾い集めていく地道な作業が続きました。
ようやく理論的な裏付けができ、試作品に実装する段階になってからも想定外の問題がいくつも発生しました。周波数を上げることで、別の部品に影響が出てしまい、思ったように動いてくれず、設計から見直すようなこともありました。1つの課題をクリアして技術的なステージが上がると、また別の課題が出てきて、それをクリアする繰り返しでした。

プレス発表直後から問い合わせが殺到。
社内変革を促すトリガーにも

2018年1月、「名刺サイズの薄型1kWの絶縁双方向電力変換器を開発」として初めてプレス発表を行いました。

権瓶

最大2MHzの高周波スイッチング技術を採用することで超小型サイズを実現しました。また、次世代半導体である窒化ガリウム(GaN)パワー半導体を使うことで、高周波スイッチングでありながら高い電力変換効率を達成しました。このGaNパワー半導体のスイッチタイミングをいかに制御するかという技術は、特許を申請した弊社独自の技術であり、今回の開発の一番のポイントです。中原を中心としたチームの最大の成果の1つといえるでしょう。

開発チームの働きぶりを、いま振り返ってみていかがですか。

中原

ここまで私の専門であるハードウエア開発に関するポイントや苦労を話してきましたが、専門外であるソフトウエア開発に関しても、当然ながらさまざまな苦労がありました。私はチームリーダーとして「世界一小さいものを」という指示を受けていましたが、私自身もメンバーに対していろいろ厳しい要求をしていたかもしれません。私より若いメンバーもいて、彼らにとってはチャレンジングな経験だったと思いますが、常に前向きに取り組んでくれました。

権瓶

中原は非常に論理的な思考を持っており、物事を順序立てて、ロスなく進めていくことに長けていました。特許申請の新技術を開発できたのも、中原のそうした長所が生かされたといえるでしょう。 チームメンバーの一部は、その後、V2Gの開発により深く携わるようになりました。一方、中原はDABをさらに発展させた「3ポート電力変換技術」の開発にも携わっています。これは、例えば電池⇔系統⇔負荷などの3つのデバイスへの双方向電力変換を可能にし、車載充電器やパワーコンディショナー、蓄電システムなどのさらなる高機能化へつながると考えています。

今回のDAB開発は、会社にとっても何らかの波及効果がありましたか。

権瓶

最初にお話ししたように、今回の開発はサプライヤーとしての価値向上につなげる狙いがあり、実際、プレス発表した後で社外からの見る目も変わってきており、自動車メーカー様の研究所などからも頻繁に問い合わせが入るようになりました。社内の意識としても、従来のように仕様書どおりに作る受け身の姿勢から、メーカー様に対して提案をするという意識に変化していきました。DABの開発は、いわば社内の変革を促すためのトリガーの役割も果たしたのだと考えています。

CTO室では、フェロー達が培ってきたパワーエレクトロニクス技術をベースに、イノベーション活動を進めてまいりました。その成果が「絶縁双方向電力変換器」であり、高効率、小型なDCDC電源を生み出しました。これをトリガーとしてV2Gシステムなどに必要な電力変換技術開発に挑戦していくことになりました。

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